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山本薩夫監督の「白い巨塔」 [映画]

今年は、映画監督の山本薩夫さんの生誕100年ということで、NHKBS2でも特集を組んでいましたね。
私は映画も大好きで、馬力のあった独身時代は年間に100本くらい観ていたこともありましたが、このブログは音楽のことを中心にするつもりでしたので、敢えて映画のことは主体的に取り上げてきませんでした。

それでもちょっと取り上げてみたかったのは、山本監督の映画における音楽がいずれも強く印象に残っているからにほかなりません。

溝口健二・黒澤明・木下惠介といった大重鎮から、大島渚・吉田喜重・篠田正浩・勅使河原宏・小栗康平などのような気鋭の映画監督に至るまで、映画監督が映像・美術・照明などとともに音楽や音響に大きな関心を抱くのは当然のことでしょう。
しかし、小津安二郎や成瀬巳喜男といった人たちのように、あまり音楽に関心を持たなかったのではないか、と思わせる映画監督もいたりします。

一方、山本薩夫監督や今井正監督のように、映画全体の音楽設計という面を中心に取り上げられることはあまりなくても、映画表現の重要な要素として音楽を捉えていた人たちも当然おられます。
新藤兼人や熊井啓や高畑勳などという人たちもこの系譜に位置づけられましょうか。

山本薩夫監督のことに話を戻しますと、戦後の独立プロ時代には、團伊玖磨・林光・芥川也寸志・間宮芳生といった、いわゆるミュージック・サーヴァントの作曲家を起用して素晴らしい映画を作っています。
真空地帯(團伊玖磨)、荷車の歌(林光)、浮草日記(芥川也寸志)などが代表的な作品でしょうか。

大映時代は、主に池野成と組み、その他では「忍びの者」「続忍びの者」での渡辺宙明(マジンガーZの主題歌でも有名)など、映画音楽や劇伴の世界で名をなした名手と仕事をしています。

そして、「戦争と人間三部作」以降の大作路線で佐藤勝と共に仕事を重ね、正に蜜月ともいうべき肝胆相照らす仲での作品を残しました。

佐藤勝さんは、職業的映画音楽作家として日本を代表する作曲家であり、殊に黒澤明と組んでの仕事は外に類を見ない高みに達しているものと思います。
私は特に「蜘蛛巣城」の音楽を高く評価するものです。

山本監督作品における佐藤さんの音楽、私は、先に上げた「戦争と人間」のほか、「華麗なる一族」や「あゝ野麦峠」が強く印象に残っていて、折に触れてその流麗かつ雄渾な旋律を思い起こします。
「戦争と人間」や「あゝ野麦峠」で用いられた主題歌が、現在、単独ではほとんど聴くことができないのが残念でなりません。

さて、そんな山本薩夫監督の作品、私はどれも大好きなのですが、とりわけお気に入りなのは「白い巨塔」。
音楽は池野成です。

筋金入りのコミュニストであり、社会派の監督として知られる山本監督ですが、その根本的な姿勢は、この作品に見られるように、観客が喜ぶ映画を届けることを第一とする映画界きってのカツドウヤとしてのそれでありましょう。
医学会や大学の医学部に蠢くどろどろとした権力争いや自己保身の内実を暴きだしたこの映画が、ただ内面の暴露話だけに終始するのではなく、正しく手に汗握るスリルとサスペンスの上に、男女の愛憎をも描き出して間然とするところがありません。
150分という長尺にもかかわらず長さを全く感じさせないその充実した展開は、山崎豊子の原作や橋本忍の脚本によるところももちろん大きかろうと思われますが、ドラマの厚みを重視して、重要な役所に映画俳優ではなく新劇出身の舞台俳優を起用し、ツボを心得たケレン味たっぷりの演出で物語を描き出した山本監督の手腕があってこそのものではないでしょうか。

池野成の音楽も誠に素晴らしいもので、無調に近い不安定な和声を用いながらも、随所に哀切極まりない美しい旋律を歌わせています。
余程綿密な音楽設計をされたのであろうと、初めてこの映画を観たときには、本当にため息のつく想いでした。
池野さんは、山本監督との間でのいくつかの名作の外、吉村公三郎の「夜の河」などにおいても印象的な音楽を作曲しています。
大映の一時代を代表する映画音楽作家といってもいいでしょう。
東宝などでも、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」といった素晴らしい仕事も残しておられます。
一方で池野さんは、いわゆる純音楽においても、「EVOCATION」「古代的断章」といった特徴的で優れた作品を残しております。
そちらの方の作品群は、ほとんど楽壇の話題には上らず、従ってレコードなどの形で演奏が残されていないことが残念でなりません。
もっともっと知られても良い作曲家だと、私は思います。

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Cecilia

山本薩夫監督と言えば「あゝ野麦峠」の監督として記憶しています。
ほかは知りませんでした。
そして佐藤勝さんも名前を知りませんでしたが、映画の中の音楽は今も鮮やかに記憶しています。
もう一度観たいのですがDVDがないので観ることができず残念です。
佐藤さんの曲の話題ではないのですが、関連でこんな記事を書いています。
http://santa-cecilia.blog.so-net.ne.jp/2010-02-26
「ダニューブ河の漣」、効果的に使われていたと記憶しています。
by Cecilia (2010-08-23 15:06) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、nice!とコメント、ありがとうございました。
この話題で、コメントをいただけるとは本当に嬉しい限りです。

「あゝ野麦峠」は確か東宝系で公開されたはずなのですが、どうやら著作権の関係などもあって、DVD化されなかったようです。
テレビで何度か放映されたことがありましたが、ほとんどが無残なカット版で、食欲が旺盛でいつも豆を食べていた工女の平井ときが、最期に豆を食べて諏訪湖に身を投げるシーンなど、かなり重要な部分もカットされていたように思います。
残念なことですね。
今年は山本薩夫監督の生誕百周年ということもありますから、是非とも、DVD化あるいはテレビでの完全放映を願いたいところです。

佐藤勝さんは流麗で親しみやすい映画音楽をたくさん残されましたが、それらを集めたCDは絶版になっているようです。
「あゝ野麦峠」の主題歌を、確かアルプという女声グループが歌っていたはずですが、この曲も現在では入手困難で、聴くことができません。

ところで、今年の二月にお書きになった記事、早速拝読しました。
この件に関しては、そちらの方にもコメントをさせていただきます。
by 伊閣蝶 (2010-08-23 18:09) 

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