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クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルのブルックナー交響曲第8番(1961年ライブ) [音楽]

今週に入ってから数日、少し暖かな天気が続きましたが、今日はまた冷え込みが戻ってきています。
これから週末にかけて同じような天気となりそうで、瞬間湯沸かし器などの給湯設備のない住居におりますから、食器洗いなどの辛い時期はまだまだ続きそうでうんざりしますね。
私は湯たんぽを使っているのですが、その残り湯を山用のテルモス(魔法瓶)に入れて、夕食の後片付けにも流用しています。朝はもちろん、夜も水はかなりの冷たさですから、それでちょっと助かっているところです。

そんな中、鹿児島の友人から水仙の花の写真が届き、心の温まる思いがしました。
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ああ、こんなに寒いさなかでも着実に春はやってくるのだな、と改めて感じ入った次第です。

ドイツロマン派の音楽を愛好する人にとって、ハンス・クナッパーツブッシュの名前は閑却すべからざる響きがあるのではないかと、私は思っております(もちろん、牽強付会以外の何物でもないのですが(^_^;)。
とりわけワグナーとブルックナーの演奏においては、大いなる一つの巨大な足跡を残した、といえるのではないでしょうか。
クナッパーツブッシュとウィーン・フィルとの結びつきは、中でも大変深いものがあったそうですが、そのコンビによるブルックナーの交響曲第8番のライブ録音が、新たなる音源から復刻されました。

これは1961年10月29日、ムジークフェラインザールでのライブを録音したもので、オーストリア放送協会が所持していた録音テープから復刻したのだそうです。
この演奏のCDは以前にも出回ったことがありましたが、海賊版で、しかもあきらかにピッチが高く音質も劣悪でとても聞けたものではありませんでした。絶対音階を持たない私ですらそう感じたのですから、そうした感覚を身に着けているリスナーが聴いたら、あまりの居心地の悪さに吐き気を催したのではないでしょうか。
「クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィル」の名前に惑わされて購入してしまった私は、さすがに「金返せー!」と地団太を踏んでしまったものです。
しかし、さまざまな記録から鑑みるに、この日のライブそのものは大変な演奏であったはずでありますから、正規録音盤が出ることを心待ちにしておりました。
今回のこのCDを聴き、幸いなことにその期待を裏切らない演奏であることを改めて認識したところです。
モノラル録音ではありますが、音質も良好で、もちろんピッチの狂いもありません。
安心してその当時のウィーン・フィルの演奏を聴くことができました。
ブルックナーの交響曲そのものが、何か途方もなく巨大な構築物やはるかに連なる重畳たる山脈を仰ぎ見るような世界を現出させるのですが、クナッパーツブッシュがこれを演奏すると、その感を一層強めます。
第4楽章のコーダを聴きながら、この実演は一体どれほどのものであったのかと、遠い世界に想いを馳せてしまいました。
クナッパーツブッシュというと、悠揚迫らざる演奏という印象が強く、全体的にテンポが遅いように思われがちですが、それはここぞというキモの部分で思い切ったルバートをかけたり、ゲネラルパウゼをたっぷりととることによるものでしょう。
この演奏においてもそうですが、必要に応じて自在にテンポを動かし、むしろ流麗といっていいほど軽快に演奏している箇所も大変多く存在します。
それゆえにこそ、ルバートやゲネラルパウゼの印象が強く刻み込まれるのではないでしょうか。
ブルックナーの交響曲第8番といえば、恐らく一番有名なのは第3楽章のアダージョ。
ここでもクナッパーツブッシュの棒はたっぷりとした響きを導きだします。
私としては、二度目のB2(ハース版では163小節)のGesとEsの微妙な和音をもう少し鳴らして欲しいなと思ったり、ほかの演奏では結構強調されることが多いコーダの287小節(ハース版)のホルンによる上昇句が大人しいな、などと感じたものですが、もしかすると改訂版の解釈によるものかもしれず、これはこれでなるほどと頷かされました(私の手持ちのスコアはハース版なので改訂版がどのようになっているのか分かりませんし、当然、小節番号も違っていると思います、為念)。
それから、ホルンなどの金管が高音域の音で乱れたり、フィナーレのコーダでティンパニが打音の数を間違えて叩き過ぎたりといった、「ライブならでは」のミスも散見されます。
しかし全体の音楽表現からすれば、これも小さな傷というべきなのかもしれませんね。
クナッパーツブッシュは練習嫌いで知られていましたし、ウィーン・フィルも同様に練習を嫌っていたそうですから、こうした「事故」も起きてしまうのでしょうか。
同じライブでも、チェリビダッケやムラヴィンスキーであれば決して許さなかっただろうな、と、聴きながら自然に笑みがこぼれてしまいました。

クナッパーツブッシュとウィーン・フィルとの間の逸話に、「この曲は私もよくわかっているし、諸君もよくわかっていることだろう。従って練習する意味はない」といってリハーサルをせずに帰ってしまった、というものがあります。
評論家の故吉田秀和さんが紹介していましたから、本当にあった話なのでしょうが、事実、いきなり本番、という演奏も数多くあったそうです。
それでもこれだけの演奏を残せるのですからたいしたものですね。
そうした逸話の中で私の一番のお気に入りは、暗譜で振らない理由を尋ねられた折の回答。

「一体何がいけないんだ?私は楽譜が読めるんだよ」

というもの\(^o^)/
そりゃそうですよね、と爆笑してしまいました。
念のため断っておきますが、クナッパーツブッシュは、自分のレパートリーとしている曲のスコアは全て完璧に暗記していて、一度も振り間違えたことはありませんでした。
指揮台にスコアは広げていましたが、それに目をやることは全くなかったという楽団員の証言もあるそうです。

ブルックナーとクナッパーツブッシュ、あるいは、クナッパーツブッシュとウィーン・フィルという組み合わせに思い入れをお持ちの方であれば、このCDは間違いなく聴く価値があるものと思います。
ご興味のある向きは是非ともご一聴のほどを。

因みに、クナッパーツブッシュ指揮によるブルックナー交響曲第8番の決定版とされているのは、このCDです。

ミュンヘン・フィルとのスタジオ・セッション録音ですが、貴重なステレオ録音なので、ヴァイオリン両翼配置などの特徴もよくわかり、音質も良好です。
もちろん演奏も第一級で、クナッパーツブッシュの表現に対してひたむきについていこうとする団員の熱意も伝わり、正に「正統」というべき逸品でしょう。
ただ、これは単なる感覚の問題だとは思うのですが、私としては、30年以上前に購入したLPレコードの音質の方が好みです。デジタルリマスターとは言い条、CDはとてもそのレベルにまでは達していないような気がしてなりません。

なお、同じコンビ(クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル)による次のCDも実にすばらしい演奏です。

特にシューマンの交響曲第4番は、この曲がこれほど巨大なものであったことを改めて認識させてくれる演奏といえるのではないでしょうか。
正にクナッパーツブッシュの面目躍如たるものがあると思います。
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tochimochi

昨日からまた一段と寒くなってきました。
湯タンポの活躍のお話を聞くとほっとした気分になります。
水仙の写真にもほっとさせられます。
季節は着実に進んでますね。
by tochimochi (2013-01-11 06:49) 

夏炉冬扇

こんばんは。
最近ユーチューブで♪聞きながらパソコンしてます。
by 夏炉冬扇 (2013-01-11 21:32) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
今夜もことさら冷えて来ています。
湯たんぽ、単純な構造ながら、実にバリエーションが豊富で助かります。
水仙の花には、私もホッと心が和みました。
厳しい寒さではありますが、春は着実にやってくるのだな、と。
by 伊閣蝶 (2013-01-11 23:11) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
なんとyoutubeをお聞きでしたか!
進んでおられますね。
by 伊閣蝶 (2013-01-11 23:12) 

ムース

クナのブル8、もちろんミュンヘンフィルのものを聴き、巨大な威容に圧倒された覚えはあります。。クナだけに改訂版ですが、私は楽譜を持っていないので、そもそも版ごとの具体的な違いが分からないのですが、改訂版は強い違和感を覚える箇所が数箇所ありますね。残念ながら、改訂版の楽譜自体が入手困難と思われます。
by ムース (2013-01-12 10:42) 

伊閣蝶

ムースさん、こんばんは。
このCD、ミュンヘンフィルによる名盤と比肩するかもしれないなと、個人的には感じました。演奏終了後の、まだ残響があるうちにフライング拍手が起こる点は残念ですが。
ブルックナーの交響曲の改訂版は、仰る通り、原典版を聴き慣れていると大変強い違和感を覚えます。それでも8番は少ない方なのかもしれませんが。
改訂版の楽譜、仰る通り現在では入手は相当に困難だと思います。
by 伊閣蝶 (2013-01-12 23:04) 

Ephyranthes

元 朝比奈です。記事全部消してしまいました。
よろしくお願いします。

クナというと拍手も嫌いだったみたいですよね。
いつか聴いて見たいとは思うのですが・・・
by Ephyranthes (2013-01-13 00:41) 

のら人

>瞬間湯沸かし器などの給湯設備のない住居におり
これには聊かビックリしました。
ご苦労が偲ばれます。
それでも、山で鍛えている伊閣蝶様なら、あの手この手で切り抜けられるのでしょう。 頑張ってください。 ^^
by のら人 (2013-01-13 12:44) 

伊閣蝶

Ephyranthesさん、こんにちは。
クナッパーツブッシュは拍手も嫌いでしたか。
挨拶が嫌い(というか身体的理由からできなかったようですが)という話は聞いていましたが、コンサートでそれではちょっと、という気もしますね。
機会がございましたら是非。シューマンも聴きものだと思います。
by 伊閣蝶 (2013-01-13 14:20) 

伊閣蝶

のら人さん、こんにちは。
単身赴任ですから、なるべく備品類を持ち込まないように、と思ったことによるものです。
しかし、湯沸かし器なしはさすがに厳しいところです。湯たんぽがあって助かりました。
お湯の使い回し、そういえば、冬山のテント生活では技術の一つでしたね。

by 伊閣蝶 (2013-01-13 14:24) 

九子

伊閣蝶さん、こんにちわ。
すみません。実は伊閣蝶さんから頂いた大切なコメントをうっかりと消してしまいまして・・。内容は読ませて頂いておりましたので、お返事だけはさせて頂きました。うっかり者ですみません。

何しろクラシック音楽は初心者ですのでクナッパーツブッシュなどというお名前すら存知上げなかったのですが、気持ちが悪くなるほどひどい海賊版が出回っていたなんてひどい話ですね。

天才指揮者でいらっしゃったのでしょうが、練習嫌いというところだけ共感を覚えます。(^^;;
by 九子 (2013-01-14 11:53) 

Cecilia

テルモスとはTHERMOSでしょうか?
自分がTHERMOSをサーモスと読んでいたのは間違いだったかと思って調べたらやっぱりそれで良かったです。関係はないのでしょうか?
そういえば夫が山用の水筒(魔法瓶)をよくアラジンと言っていました。(アラジンの商品だったので)

>「一体何がいけないんだ?私は楽譜が読めるんだよ」

指揮者は楽譜を見て振るものと思っていましたが暗譜で振る人も多いのでしょうか?いずれにしても楽譜の全てが当然頭と体に入っていなければ指揮などできないと思っています。
by Cecilia (2013-01-15 10:38) 

伊閣蝶

九子さん、こんばんは。
とんでもない。お読み頂いただけでも嬉しい限りです。
どうぞ、お気になさらずにお願い申し上げます。
クナッパーツブッシュは、結構毀誉褒貶の著しい指揮者でしたから、それほど一般的な知名度は高くありません。
でも、やはり一代の名指揮者であったことは確かだと思います。
練習嫌いは玉にきずですが、実は、私もちょっと共感したりしています。

by 伊閣蝶 (2013-01-15 22:51) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
テルモスとは、仰る通りTHERMOSのことです。
THERMOS社はドイツが発祥ですから、ドイツ語読みで「テルモス」と呼ぶのは、一世代前の山屋くらいかもしれませんね。
現在ではサーモスが一般的だと思います。
私たちが駆け出しだったころ、テルモスは高価で憧れでしたから、自然にそういう名前で読んでしまいます。
アラジンも懐かしい名前ですね。
私も持っていました。

ところで、暗譜で振る指揮者ですが、結構たくさんおられます。
カラヤンなどは暗譜の上、目を瞑って振っていましたね。
それから、指揮をしようと思えば、仰る通り、その楽譜と響くであろう音は、頭と体に染み込むほど勉強しなければなら無いと思います。

by 伊閣蝶 (2013-01-15 22:52) 

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