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東京クヮルテットによるベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集 [音楽]

お天気がめまぐるしく変わっています。
九州では春一番が吹いたと、鹿児島の友人から連絡がありました。
同じ強風でも、こちらはまだ北風が主流で、今朝も小雨の降る中、時折風向きの変わる強風にあおられ、折り畳み傘の骨が折れてしまいました。「バカヤロー」などと風に向かって思わず吠えてしまいましたが、こればかりは致し方ありませんね。

なかなか音楽の話題を取り上げられずにおりましたが、もちろん聴いていなかった、などということではなく、どうも文章にまとめる余裕が心身ともになかった、という極私的な事情による結果論にすぎません。
そんな中ではありますが、日々の仕事に追われていると、就寝前に聴く音楽はことさら心にしみ込み、精神面での滋養を与えてくれように思われます。
寝床に入って消灯してから聴いているのですが、CDをかけているAWMは、演奏が終わって一定時間が経つと自動的にスタンバイモードに切り替わることもあり、聴きながら安心して眠ってしまうこともしばしばあります。何とも贅沢な睡眠のとり方だなと思っているところです。

今、そうやってかけているCDは、東京クヮルテットによるベートーヴェンの弦楽四重奏曲です。


この弦楽四重奏曲全集は、東京クヮルテットの第二期メンバーによるものであり、正に脂の乗り切った絶妙で美しい響きに満たされた素晴らしい演奏が繰り広げられていきます。
因みにメンバーは以下の通りです。
  • 第一ヴァイオリン:ピーター・ウンジャン
  • 第二ヴァイオリン:池田菊衛
  • ヴィオラ:磯村和英
  • チェロ:原田禎夫

このうち、磯村さんと原田さんは創設メンバーでありました。
このCDは、東京クヮルテット結成20周年を記念して世界各地で行われたベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会に併行してセッション録音されたもので、ピンカス・ズッカーマンと共演した弦楽五重奏曲やピアノ・ソナタ第9番から編曲されたヘ長調のHess34も含まれています。
大フーガ変ロ長調がおさめられていることはいうまでもありません。

東京クヮルテットは、昨年6月、第二ヴァイオリンの池田さんとヴィオラの磯村さんが退団を表明したことから、誠に残念ながら解散と相成りました。
ベートーヴェンはもとより、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、ブラームスから、ヴェルク、バルトーク、ウェーベルンに至るまで、彼らの演奏を聴いて心を満たされてきた私としては誠に残念な限りです。
齋藤秀雄の門下生であり、その後、ジュリアード音楽学校に学んだ原田幸一郎・名倉淑子・磯村和英・原田禎夫によって創設された東京クヮルテット。
1969年から2013年まで40年余りの長き(創設メンバーによる活動は1974年まで)にわたって、世界を魅了し続けた団体でした。

齋藤秀雄さんは、ローゼンシュトックの指揮を目の当たりにして慧眼し、体系的かつ合理的な音楽教育を実践した方で、とりわけ指揮者の育成においては多大なる功績を残しました。
岩城宏之・若杉弘・小澤征爾・秋山和慶・山本直純・井上道義・飯森泰次朗など、その門下から羽ばたいた指揮者は、逸れこそ枚挙のいとまもありません。
一方、ご自身がチェロの演奏者であったことから、弦楽器方面でも多くの演奏家を育てています。
厳本真理・前橋汀子といった名前がすぐに思い浮かびますし、創設期の東京クヮルテットのメンバーは、正に齋藤メソッドの申し子ともいえるのではないでしょうか。
以前、日経の夕刊に掲載されたチェリスト・原田禎夫さんのインタビューによると、齋藤秀雄先生は誠に厳しい方だったようで、「一度も褒められたことはなく、どんなに頑張っても最後まで認めてくれなかった」「あれは今でいう一種のいじめやパワハラではないか」と仰っていました。
しかし、齋藤秀雄さんの別のインタビュー記事を読むと、リズム感やアクセントといった曲の表情を左右する要素について、「わからない奴はどう教えてもわからない。ほらそこにアクセントがあるだろうといってもそれを感じ取ることができないのだから仕方がない」「そういう相手にも、自分自身で駄目だと気付くまでは一応教える」といった意味のことを仰っていましたから、いうまでもなく原田禎夫さんには大きな期待を寄せていたために先生も厳しい態度で臨んだということでしょう。

東京クヮルテットの演奏を聴いていると、単に「技術的に優れている」などといった表面的な話ではなく、もっと心の奥深いところからの共鳴を呼ぶ力を感じます。一つ一つの楽器の奏でる音色や響き、そして精緻なアンサンブルの中で繰り広げられる絶妙なデュナーミクとアゴーギク。
このベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲ボックスCDは、そうした全ての面における完璧な音楽表現が結実した、正に畢生の「名演」というべきものでしょう。
それが、3000円を切る価格で購入できるとは、何度も繰り返しますが、誠に良い時代になったものです。

それにしても、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲。
誠に恐るべき音楽ではないかと改めて痛感しました。
そのあまりの完成度の高さと深い世界観に打ちのめさたゆえか、シューマンやドヴォルザークなどの少数の例外を除いて、この分野でのめぼしい作品は長きにわたって生み出されてきませんでした。あのブラームスですら、弦楽四重奏曲は二曲しか作っていないのです。
しかし、このベートーヴェンの弦楽四重奏曲集を聴いていると、才能があればあるほどこれらを超える世界を構築することの絶望的な難しさに直面してしまうのではなかろうかと、多くの作曲家たちのそうした想いをしみじみ感得してしまいます。
殊に、それまでは通奏低音の一部としてしかとらえられてこなかったチェロに光を当て、主要なテーマを演奏させた先見性には正しく脱帽です。チェロが雄渾な世界を描き出すことによって、曲そのものに分厚く重層的な響きを与えることができた、ともいえるのかもしれません。
尤も、ベートーヴェンの時代には、チェロのエキスパートはそれほど存在しなかったそうですから、周囲に与えた困惑は如何ばかりかと忖度してしまいますが。
中でもラズモフスキーから始まる後期の作品は、とても四本の弦楽器のみで奏でられているとは思えないほどの世界であり、あたかも交響曲を聴いているかのような錯覚にさえ襲われるのですから(ということで、第7番以降の曲は寝しなに聴くと思わず曲にのめりこみ却って目がさえてしまいますから、その点では私の場合、少し誤用でありましたね)。

交響曲、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、弦楽四重奏曲など、ベートーヴェンが出現する以前と以後とでは、明らかにその表現される世界観が大きく異なっています。
音楽というものを形而上の表現として解き放ち、限りなく深い世界を構築していく道を切り拓いた。
ベートーヴェンをして「楽聖」という尊称がありますけれども、これは決して過大でもなんでもない。この四重奏曲を聴きながら、改めてそんな感慨にも耽ったものでした。
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hirochiki

年度末でいっそうお仕事がお忙しい事と思います。
そんな時、就寝前に心に栄養を与えてくれる音楽を聴くことは
明日への活力にもなりそうですね。
このところ、三寒四温を繰り返しているせいか、会社では発熱を伴う風邪を引いている人が増えています。
それに加え、花粉症を発症している人もいて大変辛そうです。
この忙しい3月を何とか元気に乗りきって新年度を迎えたいものですね。
by hirochiki (2014-03-15 18:35) 

tochimochi

今日からこちらは大分暖かくなりました。
やっと春が来たという感じです。
オートスタンバイのAWMで睡眠とは仰るとおり贅沢ですね。
睡眠障害気味もの私にもいい睡眠法が欲しいです ^^;

by tochimochi (2014-03-15 22:01) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
どうもなかなか気持ちの上でも余裕がなく困ったものですが、音楽を聴くことで少しは心も休まるのでしょう。
今日も、お天気は良かったのですが肌寒い一日でした。
しかし、明日はどうやら暖かくなりそうです。
お勤め先では風邪を引いている方が増えておられるとのこと。
hirochikiさんもくれぐれもお気をつけ下さい。
私も花粉症があるので、本当に辛い時期です。
何とか元気に4月を迎えたいものです。
by 伊閣蝶 (2014-03-15 22:51) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
御地も暖かくなってきたとのこと。
こちらも明日辺りから春本番となりそうです。
音楽を聴いていると、やはり気持が和むからでしょうか、どうしても最後まで聴かないうちに眠ってしまうようです。贅沢ですね(^^;
私も寝付きの悪い方ですので、格好の導眠アイテムを入手したという感じです。
by 伊閣蝶 (2014-03-15 23:01) 

のら人

BOSEので聴くと素晴らしい音色と想像できます。
オートスタンバイですか。 エコですね。 ^^
自分はもっぱらCDもブルーレイ観賞も、全てノートPCです。(苦笑)

by のら人 (2014-03-16 14:43) 

夏炉冬扇

今晩は。
先日は強い風の日でした。
心落ち着く「全集」でしょうね。
by 夏炉冬扇 (2014-03-16 18:37) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
AWMのオートスタンバイはありがたい機能です。
BOSE独特の音の広がりも嬉しいものです。
ノートPCでの再生も、この頃のPCは音響的にもかなり優れているので、十分鑑賞に耐えうると思います。
by 伊閣蝶 (2014-03-16 22:39) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
こちらも今日は強い風の一日でした。
弦楽四重奏曲は、とりわけ心の平安を与えてくれます。
by 伊閣蝶 (2014-03-16 22:45) 

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