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ヤンソンス&バイエルン放送響の演奏会 [音楽]

雨の降る肌寒いお天気が続いています。
来月の中旬から家内が入院しなければならなくなり、私はずっと気鬱の状況が続いています。
当の家内は、「今からくよくよしても始まらない。あなたがそんなことでは心配だ」と逆に私を励ましてくれます。
家内の言うとおりで、私がくよくよしても仕方がないことはわかってはいるのですが、ふとした瞬間に頭の中によからぬ想像がよぎり、自分でもどうしようもなく落ち込んでしまうのです。
「叶うのならば私が代わりたい」そんなふうにも真剣に考えてしまい、そのことが明らかになって以来、なかなか熟睡もできず夢すらも関係したものを見てしまう体たらくです。
私自身、これまでほとんど重篤な疾病とは無縁の生活をしてきましたから、余計に応えてしまうのかもしれませんが。

そんな後ろ向きな気分を変える目的もあって、妻と二人で、マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団のコンサートに出かけてまいりました。
jansons.jpg

会場はサントリーホールで、曲目は次の通りです。
  1. ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調
  2. R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
  3. R・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲


1でのピアノ独奏はクリスティアン・ツィメルマン。

私は、マリス・ヤンソンスはもちろん、バイエルン放送響の演奏も実演では一度も聴いたことがなかった(レコードやCDはかなりの枚数を所持していますが)ので、今回の演奏会は、正に高鳴る胸の鼓動を抑えきれないほどに待ち遠しく興奮しておりました。
つまり、聴く前から(このコンビの演奏を聴くという期待感だけで)感動していたというわけです。いい齢をしたぢぢいが何たる青臭いことを!、と自分ながらに鼻白む想いがしましたが、これが正直な気持ちであり、そんな自分がちょっといじらしくも思えました。

ブラームスのピアノ協奏曲第1番ニ短調。
巨大な造形と熟達した作曲技法の極致にあって超有名なピアノ協奏曲第2番に比べると、どうしても生硬な感がぬぐえず、構えが立派な割にはなんとなく解放感に劣るような気がしていた第1番でしたが、この演奏を聴いて、自分のそうした思い込みが如何に稚拙で笑止千万なものかを痛感しました。
言い訳になるとは思いますけれども、この曲がこれほど大きな広がりと開放感を与えてくれたのは、ひとえにヤンソンス&バイエルン、そしてツィメルマンのおかげではないかと感じているのです。
特に第2楽章のアダージョには参りました。
なんという深い祈りと慰めに満ちた演奏であったことか。
このアダージョは、亡き恩師シューマンの魂の平安を願い、夫を亡くしたクララ・シューマンの悲しみを癒すために書かれたという話ですが、正に心の中の澱を洗い流してくれるかのような想いでした。
ツィメルマンによって奏でられるカデンツァの絶妙な美しさ。思わず目頭が熱くなってしまいます。
そして、第3楽章。
中間部のフーガが特に絶妙で、ピアノ独奏も、ここを先途とばかりに、二つのカデンツァを中心に輝くばかりの超絶技巧を繰り広げます。
胸を鷲掴みにされつつも、ひたすらに心の開放感を味わわせてくれた、実に実に得難い名演でした。
ツィメルマンのピアノの素晴らしさももちろんですが、ヤンソンスがこれほど協奏曲の「ヅケ」と巧みに行うとはびっくりです。
ブラームスの協奏曲は、むしろ独奏楽器を持った交響曲のような感じを強くさせますから、単なるオーケストラ伴奏に落ちない性格のものではありましょうけれども、それにしても素晴らしいアンサンブルでした。
ツィメルマンのピアノの呼吸を瞬時に計り、それにオーケストラを合わせて全体の響きを作り上げる。
これは、よほど巧みなオーケストラ・ドライブの力量なくしてはかないません。
ヤンソンス&バイエルンという当代随一のコンビゆえに成し遂げられた演奏ともいえましょうか。
ライブゆえの傷(ホルンがソロパートで不安定になったり、ピアノにちょっとしたミスタッチがあった)も、全体を通して届けられた充実感に比べれば実に些細なものでした。
何よりも、久しぶりに聴いたこの曲の魅力を再確認させてくれたことに、満腔のお礼を申し上げたい気分です。

休憩後のR・シュトラウスの二曲。
これがまた筆舌に尽くしがたい演奏でした。
R・シュトラウスは、バイエルン放送響の設立時の記念公演でタクトを振ったほど、この楽団との深いつながりを有しており、その意味では正しく自家薬籠中の演奏なのでしょうが、それにしても、一糸の乱れもない統一された響きには驚くばかりです。
あの複雑で巨大なスコアの曲を、全くの乱れを感じさせずに、一気にクライマックスへと聴衆を拉致していく力量には感嘆の声しか上がりません。
「ばらの騎士」組曲の随所に顔を出すワルツの、なんという自在で軽やかなこと!
J・シュトラウス二世も顔色をなからしめるのではないか、と思わず頬が緩みました。
何よりも、この組曲を聴きながら、歌劇「ばらの騎士」の舞台のありようがつぎつぎに眼交に浮かんできたことがうれしくてなりませんでした。
R・シュトラウスは、その歌曲をお聴きになってもお分かりのとおり、素晴らしく美しく繊細な旋律をたくさん生み出しています。
それらを、この大規模な管弦楽曲の中から感じ取れる喜びもまた格別のものがありました。

さて、アンコールでは、そのJ・シュトラウス二世の「ピッツィカート・ポルカ」が演奏され、これはまた何とも粋な取り計らい(「ばらの騎士」からの、ワルツとシュトラウスつながり)だと思わず頬が緩みましたが、弦楽器が前面に出て、さすがに管楽器のメンバーは疲労が濃いのかな、と思ったところ、なんと二曲目のアンコール!
これが、リゲティの「ルーマニア協奏曲(1951年)」の第4楽章で、これにはちょっと驚きました。
恥ずかしながら、私はこの曲を初めて聴いたので、曲名がわからず帰りがけに掲示板で確認したところです。
リゲティの曲といえば、スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」で使われた「永遠の光(ルクス・エテルナ)」「レクイエム」「アトモスフェール」「アヴァンチュール」などが有名ですが、近年ますます演奏の機会が増えてきているといいます。
ルーマニア協奏曲の第4楽章は5分くらいの曲でしたので、これは是非とも全曲を聴いてみましょう。

今回の演奏会で、もう一つ特筆すべきことは、聴衆が非常に良かったという点です。
フライングブラボーもなく、例えば、「ドン・ファン」での劇的なゲネラル・パウゼでもしわぶきひとつ上がりませんでした。このゲネラル・パウゼ、ヤンソンスはぐっと精神を集中し力をため込み、オケもそれにならって微動だにしていなかったことから、ホール内には異常なほどの緊張感が訪れ、聴衆は、正に息を飲んでその瞬間に立ち会ったのです。
演奏が終わった後も温かな拍手が続き、アンコールが終わった後、オーケストラのメンバーが舞台を去っても拍手は鳴りやみません。
そして、その聴衆からの拍手にこたえるように、ヤンソンスは舞台の上に戻ってきてくれました。
皆が一斉に盛大なる拍手を送ったことはいうまでもありません。

それからもう一つ。オケにとって背面に当たる席(パイプオルガンが設置されている方)の聴衆に対して、メンバー全員が回れ右をして礼を返していた姿にも胸を打たれました。

雨の肌寒い生憎のお天気ではありましたが、すっかり心と体の奥底まで温まった演奏会で、家内も大満足の様子でした。
満員電車に揺られながら自宅の最寄駅に到着したのは、既に22時30分を回った時刻でしたが、そんな時間の経過すら忘れる、本当に得難い体験となりました。
何よりも、家内の満足げな表情と笑顔が、私にとっては最高の贈り物でした。

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夏炉冬扇

立派なポスターです。
by 夏炉冬扇 (2014-11-27 17:44) 

tochimochi

そうだったんですか・・・。
伊閣蝶さんの悲しみがひしひしと伝わってきます。
どういうご病気か分かりませんが、あまり気を落とさないでください。
手術の成功を陰ながら祈っております。
by tochimochi (2014-11-27 22:57) 

九子

奥様ご心配のところ、私なんかの暢気なブログにコメント有難うございました。

それにしても伊閣蝶さんの音楽好きは本当にお若い頃からなのですね。
小学校か中学校でしたっけ?そんな時期にクラシック音楽がお好きになるというのは本当に素晴らしい耳をお持ちだったのでしょう。
哀しみののシンフォニー、シルヴィ・バルタン、ラッラーララッラーラララ・・って曲でしょうか?良く聞いてました。

それがクラシックのアレンジだという事すら知らなかったのに、その原曲を買われていらしたなんて!!

それにしても奥様も一緒に楽しまれて本当に良かったですね。
奥様もクラシック好きは伊閣蝶さんの影響ですか?

私なんか、長野に来た時に行けなかったあのイケメンさんがツィメルマンさんという人なんだとわかったので、今度こそ行かなくちゃ!(顔を見に(^^;;)と思ってました。

奥様、くれぐれもお大事に!
きっと伊閣蝶さんの奥さまは強い方のような気がします。
絶対大丈夫ですよ。( ^-^)
by 九子 (2014-11-27 23:36) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
確かに立派なポスターです。
演奏者のオーラが感じられますね。
by 伊閣蝶 (2014-11-29 00:44) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
温かなコメントを頂き、本当にありがとうございました。
手術をうけるのは家内なのですが、私の方が身を切られるような想いがします。
情けない限りですが、とにかくできる限り寄り添っていたいと思います。

by 伊閣蝶 (2014-11-29 00:48) 

伊閣蝶

九子さん、こんばんは。
仰る通り、家内は私などよりずっと精神的に強靭だと思います。
だから、私の方が甘えていたのでしょう。
そのことをいま身に染みているところです。
私の方がしっかりと支えなくてはならない、今はそう考えているところですが。
音楽のこと。私の場合は、父の影響が大きかったのだと思います。幼稚園に通っている頃から、ベートーベンの運命とか月光とかを聴かされていましたから。
残念なことに現在の父は、クラシックからは遠く離れてしまいましたが、子供のときの経験はとても大きいものがありました。

ツィメルマンさん、今度は是非お聴きになって下さい。素晴らしいピアノでしたよ(*^_^*)
by 伊閣蝶 (2014-11-29 00:56) 

ヒロノミンV

 奥様の事、心中お察しします。こういうことは意外に本人の方が腹を括れてしまう一方で、一心同体で歩んでこられたパートナーを見守る伊閣蝶さんの方が色々と思案を巡らせてしまうのは当然のことと思います。
 ツイメルマン&ヤンソンス+バイエルン放送響のコンサート、京都と西宮でも開催され、チャンスがあれば行きたいものだなあ、と思っていましたが、行くことは出来ませんでした。
 ヤンソンスの元、ドイツ音楽界の最高峰を極めつつあるオーケストラと、一番脂がのっているツイメルマンとの共演、さぞかし素晴らしかったことでしょう。文面から伊閣蝶さんの興奮が伝わって来て、僕もおすそ分けをして頂いた思いです。
 薔薇の騎士の組曲は、あのオペラの要所要所を抑えた名曲ですよね。いずれはベルリン・フィルかSKDか、ゲヴァントハウス管あるいはこのバイエルン放送響の生演奏で、その神髄に触れたいと思っています。
by ヒロノミンV (2014-11-29 21:46) 

伊閣蝶

ヒロノミンVさん、こんにちは。
温かなコメント、胸に沁みました。
本当にありがとうございました。
仰る通り、私の方がろくでもないことを考えてしまい、反省させられます。そんな私を家内の方が気遣ってくれていて、これでは全くあべこべですね。
ヤンソンス&バイエルン放送響、そしてツィメルマンのピアノ。
久しぶりに実演の興奮を味わいました。
時間と金銭的な余裕などの問題もあり、なかなか実演を聴く機会がないのですが、今回は思い切って出かけて大正解でした。
「ばらの騎士」、私はオペラとしての実演を、日本のオケとキャストで観たのですが、オックス男爵を演じた知人のバスの熱演が今でも思い起こされます。
組曲を聴きながら、その意味ではもう一度その感動を味わうことができて幸せな時間をいただきました。
しかし、「ベルリン・フィルかSKDか、ゲヴァントハウス管あるいはこのバイエルン放送響の生演奏」これは憧れますね。
そのオペラ全曲を是非とも聴いてみたいと思いました。
by 伊閣蝶 (2014-11-30 11:55) 

サンフランシスコ人

(フィラデルフィアで)ヤンソンスの演奏会に行ったことがあります....

フィラデルフィア管弦楽団

シャスタコーヴィチ/交響曲第6番
ラヴェル/ダフニスとクロエ、第2組曲
エルガー/チェロ協奏曲 (ハインリヒ・シフ)
by サンフランシスコ人 (2016-02-13 08:44) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、こんばんは。
ヤンソンスが振るフィラデルフィア、これは聴きものですね。
しかも、ショスタコーヴィチですか。
充実した演奏だったことと思います。
by 伊閣蝶 (2016-02-16 23:40) 

サンフランシスコ人

「オペラ全曲を是非とも聴いてみたいと思いました.....」

http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id337.pdf

サンフランシスコ歌劇場の『ばらの騎士』 (オペラ全曲)を、サンフランシスコのオペラハウスで観ることが出来ました.....マッケラス指揮で、シュターデ、ロット、シェーファーのキャスティング...

by サンフランシスコ人 (2016-02-20 08:18) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、こんばんは。
これはなかなか魅力的なメンバーによる公演ですね。
サンフランシスコの音楽的な環境の素晴らしさを羨ましく思います。
by 伊閣蝶 (2016-02-22 23:42) 

サンフランシスコ人

「サンフランシスコのオペラハウスで観る....」

http://www.sfwmpac.org/

豪華で品位のあるオペラハウスです....
by サンフランシスコ人 (2016-02-23 07:15) 

九子

ずいぶん前に教えて頂いたのに、なかなか読めなくてごめんなさい。
確かにこのブログでしたら読んだ覚えがありました。奥様が発病された頃だったのですね。奥様は4年以上も闘病されていらしたのですね。
本当に凄い方でした。

そうそう。この頃のツイメルマン氏を拝見したかったのです!(^^;;
お父様の影響でクラシックがお好きになられたのですね。おうち全体がよいお教室だったのでしょう。素晴らしいですね!
by 九子 (2019-04-30 00:39) 

伊閣蝶

九子さん、こんばんは。
記事をお読みいただき、ありがとうございます。
はい、この頃、家内は最初の闘病に入りました。
一旦寛解したので喜んでいたのですが、やはり無念です。
今思えば、良く私に付き合ってくれたものと、遅ればせながら感謝の気持ちで一杯です。
by 伊閣蝶 (2019-05-03 21:50) 

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