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浄瑠璃「生写朝顔話」 [音楽]

9月に入っても曇り空の雨勝ちで、秋の気配も濃厚になってきています。
近所の垣根ではムラサキシキブが紫色の実をつけていました。
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先日、国立劇場に「第200回文楽公演」をに観に行ってまいりました。

当日の演目は「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」です。
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仮名手本忠臣蔵を観てから、連れ合いも文楽に興味を持ち始めたようで、今回の提案もすんなりと受け入れてくれました。
今回の演目はどんな芝居なのか予め知っておこうと、自分からネットを検索し、あらすじを頭に入れて臨んだくらいで、私としては嬉しくもありちょっと驚きもしたところです。

この物語は儒者・熊沢蕃山作といわれる琴唄の今様歌

「露の干ぬ間の朝顔を照らす日かげのつれなきにあはれ一村雨のはらはらと降れかし」

から着想されたものです。
朝露を受けて咲く朝顔は誠に瑞々しく美しい花ですが、陽が昇ればたちまちに干上がって萎れてしまいます。
その姿が哀れなので、せめて一叢の村雨(驟雨)よ降れ、さすれば花の萎れることもなかろうものを、と歌ったものなのでしょう。
零細農民など庶民の側に立って藩政改革を行うことを提言し、治山・治水に尽力した蕃山の優しさがにじみ出てくるような唄ですね。

「生写朝顔話」の中ではこの今様が非常に重要な物語の鍵を握っており、冒頭の「宇治川蛍狩りの段」において宮城阿曾次郎が深雪の差し出す扇子に記した詞が、「宿屋の段」で瞽女の朝顔(深雪)によって歌われ、駒沢次郎左衛門(宮城阿曾次郎)はこの瞽女の朝顔こそが行方知れずとなった妻(云い交した女)の深雪であることを知る、というものです。
この今様を朝顔(深雪)が歌うシーンは、鳴り物にも琴が用意され、もちろん人形も琴を奏でます。
このシーンの人形の手は、このために指が一本一本動くようにしつらえられており、演者の吉田蓑助入魂の遣いで、正に深雪の人形が琴を奏でながら歌っているように感ぜられました。

筋を詳らかにするのはやはり無粋ですからここでは省略いたしますが、悲劇的な結末を迎えることの多い浄瑠璃の中では大団円を予感させる終わり方で、その点では比較的珍しい展開だと思います。
そうはいっても非業の死を遂げる役柄(深雪の乳母である浅香と戎屋徳右衛門ら)もおりますが、これは浄瑠璃の劇的展開の上では一つのお約束事、というべきもの。
盲目となった深雪の目を命を捨てて開かせる重要な役割を担う戎屋徳右衛門が、実は乳母・浅香の父親の古部三郎兵衛であり、娘の浅香が身を挺して深雪を暴漢から守って絶命する(その際に親子の証拠の守り刀を深雪に渡す)という、いわば主筋の姫のために一命をささげる主従の契りを体現した展開にも心を動かされます。

阿曾次郎と深雪が別れ別れになるのも、大風や大雨によって氾濫した川のせい、というところも一貫した物語の流れとなっております。

涙を誘うのは、深雪と浅香の邂逅と非情な別れを描く「浜松小屋の段」。
ここでは、深雪を吉田蓑助が、浅香を吉田和生が、それぞれ演じ、さすがに当代人形遣いの無形文化財お二人による遣いを心行くまで堪能させてもらいました。

また、チャリ場である「嶋田宿笑い薬の段」では、萩の祐仙を遣った桐竹勘十郎の超絶的な演技と豊竹咲太夫のこれまた入魂の語りがものすごく、ただただ驚嘆するばかりです。
時折、太棹の演奏が途切れる場面がありますが、そこは恐らく太夫のアドリブで、それに人形遣いが一糸乱れぬ連携を見せてくれました。
正に真剣勝負の一期一会の舞台!
互いの呼吸を計りあいながら全体の演技をより高めていこうとする気合がひしひし感ぜられます。

深い感動を味わいながら、連れ合いと二人で国立劇場を後にしました。
9月初旬とは思えないほど肌寒い日ではありましたが、話の結末に一筋の希望の光が見えたこともあって満足しつつも、それにしても冒頭の蛍狩りの段で舞台を飛んでいた蛍らしき緑の光は凄かった、どうやって飛ばしたんだろうと、帰りの電車の車中での話題しながら帰路に着いたところです。

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のら人

紫式部ですか。
もうそんな季節なんですね。
最近時が過ぎるのが早いです。^^;
by のら人 (2017-09-06 09:12) 

伊閣蝶

のら人さん、こんにちは。
はい、まだ九月の初旬というのに秋の気配です。
本当に時の過ぎるのは早い…。
by 伊閣蝶 (2017-09-06 12:41) 

夏炉冬扇

こちらには勝浦人形浄瑠璃というのが「保存」活動していて時折公演してますよ。
by 夏炉冬扇 (2017-09-06 17:55) 

いっぷく

ご夫婦揃って文楽を鑑賞とはうらやましいですね。
わが家はまだまだ子どもに手がかかるので
夫婦揃ってどこかへ出かけるなど
あと十年は無理そうです。
by いっぷく (2017-09-06 21:21) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
人形浄瑠璃は全国各地で様々な形で伝えられているようです。
生きた形で存続して欲しいものです。
by 伊閣蝶 (2017-09-06 23:08) 

伊閣蝶

いっぷくさん、こんばんは。
私たち夫婦には残念ながら子供がおらず、その点では大変寂しい想いをしておりますが、そのかわり夫婦での活動ができます。
そのことには感謝しなくてはと思います。

by 伊閣蝶 (2017-09-06 23:11) 

tochimochi

あっという間に夏が終わってしまいました。
そもそも夏があったのかという思いもありますが・・・。
文楽などは全く門外漢ですが、伊閣蝶さんの記事で少し興味を持ちました。
それにしても多趣味ですね。

by tochimochi (2017-09-07 12:29) 

ぼんぼちぼちぼち

感動深い舞台で何よりでやす。
蛍の演出、どうやったのか気になりやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2017-09-07 16:35) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
本当に、夏はあっという間に過ぎ去ってしまいました。
お天気が悪いせいもあるのでしょうが、著しく陽が短くなってしまっているように思います。
浄瑠璃は、日本の古典芸能の中でも比較的入り込みやすいと感じています。
機会がございましたら是非とも一度ご覧下さい。
by 伊閣蝶 (2017-09-07 23:04) 

伊閣蝶

ぼんぼちぼちぼちさん、こんばんは。
蛍の演出、恐らく緑色のLEDを下から細い針金のようなもので支え、点滅させているのではないかと思いますが、観客席からは完全に空中に浮いているように見えました。
工夫のほどを知りたいなと思います。
by 伊閣蝶 (2017-09-07 23:07) 

U3

 一見して実の成り方からすると「ムラサキシキブ」に思えますが、茎の色や枝の出方、そして葉の鋸歯が元の方にはないところから見ると「コムラサキ」が正しいのではないかと思われます。ご確認あれ。
by U3 (2017-09-13 09:56) 

伊閣蝶

U3さん、こんにちは。
ご指摘、心より感謝申し上げます。
早速、現物を確認してきたいと思います。
by 伊閣蝶 (2017-09-13 12:34) 

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